あたしは毎日痴漢に遭う。
行きも帰りも身動きできないほどの満員電車だし、痴漢で有名な路線を使ってるし仕方がないと思ってる。
痴漢に遭うことが日常的すぎて、もう何も感じないのが本音。
朝なんて眠いから、痴漢してくる人に寄りかかっちゃう。
普通なら、満員電車で密着してるのに、少しでも後ろの人に体重預けるとめちゃくちゃ嫌がられる。
肘で思い切り押し返されたり、急に退かれてふらついたりする。
その点痴漢してる人は避けないで全体重受け止めてくれる。
だからあたしは目的地まで寄りかかりながらウトウト夢見心地で過ごせる。
痴漢の種類としては、
○偶然触れてしまった風を装い手の甲を使う痴漢
○相手も気持ちいいに違いないと大きな勘違いをして、公認かのように大胆に撫で回す痴漢
○指と指だけをひたすら絡ませる痴漢
最後の痴漢が一番恐かった。
降りたあと合流することを期待されていそうだから。
一ヶ月前くらいに、30分間ずっと指を絡ませてきた。
五本の指を使って、あたしの五本の指に絡ませる。
何を期待しているのだろう?
何故指だけなのだろう?
この人はどこで降りるのだろう?
降りたあとどうしよう。。。
あたしは立ちながら寝たふりを決め込み、わざと大袈裟に首をカクンカクンさせた。
降りるときには伸びをして、あーよく寝た!風を装った。
全然指のことは気が付いていませんでした!をアピールした。
冷静に考えれば無理がある。。。のは今だから思うこと。
この時咄嗟に考え付いたのはこれだけ。
何食わぬ顔をして電車を降り、意識して前を向いて早歩きしながら、目だけをキョロキョロさせて周囲を警戒した。
ついてきてない?
まさかの隣にいない?
先回りして前から見てる人いない?
後ろ振り向きたい。
けどいたら恐い。
手を洗いたい。
石鹸のあるトイレはどこ?
駅のトイレを使う勇気はない。
待ち伏せされていたら嫌だし、万が一入ってこられたら、、、って考えると無理!!
ほとんど走っているような早歩きで改札を抜け、人波をかき分けて外に出た。
すぐ側のファーストフード店に何食わぬ顔をして入る。
ここは朝いつも混雑している。
トイレも客席と近い。
真っ直ぐトイレに向かい、肩にバッグを掛けたまま急いで手を洗う。
何度も石鹸を出して思い切り爪でこすり水で流す。
それを何度も繰り返す。
痴漢の感触がなくなるまで。
痴漢の体温を忘れて手が冷たくなるまで。
洗っても洗っても感触は消えなかったけど、とりあえず洗えたことで落ち着いた。
トイレから出ると、客席であたしを見張っている人がいないか確かめ、店の外に出た。
キョロキョロ辺りを見回すが、待ち伏せしてる人もいなそう。
歩きながら友達と彼氏に一連の痴漢話をメッセージで送る。
信じてくれないってわかってるんだけどね。
あたしが今まで遭ってきた数々の痴漢やセクハラの話は、もう誰も信じてくれない。
件数も人並み外れてるし、内容もAVの世界みたいで現実離れしている。
自分達にもそんな経験なくて、他にこんな目に遭ってる人も周囲にいないから。
誰に話してもいつも、嘘でしょ~と笑い話で終わる。
だから毎日痴漢に遭っていることも誰にも言ってない。
どうせ誰も信じてくれない。
痴漢未経験の女性は声を揃えて言う。
何故助けを呼ばないの?
何故大きな声を出して逃げないの?
何故被害を訴えないの?
怖くて声が出ないことを知って欲しかったけど、未経験の女性にはわからないだろう。
声をあげて勘違いだったら?
犯人に逃げられたら?
様々なことを考えてしまう。
いつも短いスカート履いてるからでしょ?
おとなしそうな顔してるからでしょ?
何も言わなそうな雰囲気だからじゃない?
未経験の人は、平気で心無いことを言う。
だから声をあげない。
どうせ誰も信じてくれない。
あたしが数分知らんぷりしていればいいだけの話。
痴漢されるよりも、周囲の心無い言葉の方が数倍傷付く。
冒頭の、
❝もう何も感じないのが本音❞
というのは、
❝何も感じないように努めている❞
が正しいのかもしれない。
あたしは何も感じない。
だから痴漢されても平気・・・