痴漢②

 

今日は彼氏とデートだった♡
今はその帰りの電車の中。
車内はガラガラ。
この車両自体、数える程度の人数しかいない。
あたしが座る長い座席には、他に誰も座っていないほど。

今日のコーディネートのテーマは、大人のセクシーな女性♡
Vネックの白ニット、黒のレザーのミニスカートに、デザインストッキングでガーターベルトを身に纏ったようなデザイン。

エッチはなしの、お買い物と夜ごはんだけのデートだったからお触りは一切なし!
彼を欲情させておいて寸止めおあずけさせるために、わざとセクシーに決めた♡
次回のお泊りデートが盛り上がることを期待して♡

案の定、買い物中あたしの見ていない隙を狙ってチラ見する彼の視線が身体中に刺さった。
自分で仕掛けた罠なのに、そのイヤラシイ視線のおかげであたしもエッチな気分になった。
彼といる間、下着が常に湿っていた。
自業自得??
ムラムラして堪らない。。。

彼と駅のホームで別れてから、ずっとエッチなサイトを読み漁っている。

まずは登録だけしてある出会い系サイト。
たくさんの男性があたしの加工写真に釣られてメッセージを送ってくれている。
知らない男性からの❝写真とても可愛いですね!❞の言葉に自己顕示欲を満たす。
❝なんだかエロい雰囲気ですね♡❞の言葉にも。
普段なら絶対会わないけど、今のこの状態なら会ってもいいかな、、、
とりあえず何通か返信をして反応を見てみよう!

反応が返ってくるまでの間、お気に入りの小説サイトを開く。
エッチな体験談や創作小説がある。
更新されている長編をチェックし、新しく投稿された話を読む。

すごくムラムラウズウズしてきた。
頭の中はエッチなことでいっぱい。

出会い系サイトに戻る。
この欲求を今すぐ満たしてくれる人はいるかな?
たくさんの反応がある。
スクロールして品定め。。。。
誰でもよければ誰かしらに今すぐ会えるだろうけど、そういうんじゃないんだよね。
長時間彼からの視線が刺さった分、焦らされた気分なの。
イヤラしく責めてくれる人がいい。
ただ挿入して終わりとかじゃイヤ。
ここにいる男性のほとんどは、自分が気持ち良くなることだけを考えているだろうなと文面からうかがえる。
❝車でサクッと❞って、いい思いするのはお前だけだろ!バカか!
❝遅漏だから満足させられます❞って、挿入だけが気持ちいいわけじゃないし、長時間挿入されて満たされるわけじゃないんだよなぁ!逆に苦痛だわ!!
どいつもこいつも何にもわかってないなっ!
セックス下手くそそうな男ばっかり!!

イライラしながら読み物サイトに戻る。
こんな物語に出てくるようなイヤラシくて上手な男性に出会いたいなぁ。。。

その時、隣に見知らぬ男性が座ってきた。
こんなにガラガラの車内なのに、わざわざ隣に座る?と不信感を持つ。
とりあえず気付かないふりを決め込むため、スマホに集中する。
でもこんな至近距離でエッチなサイトを見ていたら、何を見ているかバレてしまう。
急いでテキトーなSNSを開く。
それともあたしがエッチなサイト読み漁ってたのバレてるのかな?
焦ってきた!
焦っているのがバレないように何食わぬ顔を取り繕う。

その時、男があたしとスマホの間に、なにやらカードをチラつかせてきた。
えっ?と男性の顔を見る。

「何でも買ってあげるよ。お茶しに行こう?」

突然何を言っているのだろう?
チラつかせている目の前のカードを見ると、それはクレジットカードだった。

「ブラックカードだよ?見たことある?」

え?
ナンパ?
電車内で?
突然?
普段もナンパはしょっちゅうされるけど、いつも無視して追い払っていた。
逃げ場のない空間でのナンパに無視が通用するのか分からない。
なによりこの人の目的が理解できなくて怖い。
どう反応していいのか分からず、戸惑い黙っていると、更にお財布の中を見せ付けてきた。

「他にもブラックカード何枚かあるよ。ゴールドカードもあるよ。現金もちゃんと持ってるから安心して。」

たくさんの一万円札を指でなぞる。

いやいやいやいや金に釣られろってこと?
っていうか初対面の人に財布の中身見せます?
クレジットカード他人に見せちゃっていいの?
逆に怪しいよ!
使えるのかよそのカード!
変な人!
変!!
変!!!

周囲を見渡すと車両にはあたしとこの変な人しかいなかった。
いつから?!
スマホに夢中になりすぎて分からなかった。
いつから見られていたのだろうか?
スマホの画面も見られてたのかな?

頭の中ではパニックを起こしていたが、努めて平静を装い、スマホの画面をオフにしてバッグの奥に押し込む。
改めて周囲を見渡すが、やはり他には誰もいない。
すぐ近くの電光掲示板を見る。
最寄りの駅にはまだ着かないが、もうすぐ次の駅に着きそうだということがわかった。
次の駅で降りよう。
別の人がいる車両に乗り換えよう!!
しかもギリギリで降りて乗り換えてやろう!!!
そう決意したが、それまでの時間をやり過ごさなくてはいけない。

「お茶だけでいいから!お茶だけしよ?何もしない!約束する!」

首を横にブンブン振って❝ノー❞をアピールする。

「お茶しに行くだけ!嫌がることは何もしない!ちょっとだけ!5分だけ!!」

首を振りながらか細い声で「大丈夫です」と声を発する。

「じゃあ3分!2分だけ!」

2分だけお茶するって意味あるのかよ。。。
心の中で突っ込む。

その時、電車が駅に到着し扉が開こうとする。

すぐには立ち上がらない。
立ち上がる素振りも見せない。
発車ベルが鳴ったら走ろう。

男は相変わらず何か喋っているが、あたしは首を横に振り続ける。

ジリリリリリリリリ••••••

発車ベルが鳴ったと同時に立ち上がり、車内から出る。
男もついてきて、あたしの横にピッタリつく。
横を歩きながらブラックカードを見せ付けてくる。

「本当に何でも好きなもの買ってあげる!」

男にすぐ横で歩かれてるため、別の車両に飛び乗ることが困難になる。

扉が閉まり始めたので少し先の扉を目指して走る。

男も一緒に走ってくる。

これじゃあ扉に近付きたくても男が邪魔で近付けないじゃん!

あたしの作戦の意図がバレているのかもしれない。

男にぶつかってもいい!そう思いながら閉まりかけの扉に飛び乗ろうとした瞬間、、、

男は扉の前で大きく両手を広げて通せんぼした。

あたしは急いで止まり、男の後ろで閉まっていく扉を見つめる。

なにコイツ怖い!!!

男の後ろでゆっくり電車が動き出す。

どうしよう!
後ろを振り向くと、反対方向にも電車が止まっていることに気付く。
どこ行きかも分からない。
各駅か快速かも分からない。
これでいいや!戻ってもいい!男から逃げられればいい!
その一心で閉まりかけている扉に飛び乗った。

撒いた?
いない?
逃げられた?
心臓が飛び出ているんじゃないかと思うくらい激しくドクドク言っている。
怖い!!!
あの男どこ行った?!
動き出す電車の窓を覗くが男の姿が見えない。
自動販売機や柱が邪魔で見逃しただけかな?
撒いたっぽい。
でもとりあえず良かった。
安心した。

胸をなでおろして車内の電光掲示板に目をやる。
そこには❝回送❞の文字。

ヤバッ!回送電車に乗っちゃった!

やっと男から逃れられて安心出来たと思ったのに、また心臓がドクンドクン鳴る。
回送電車がどこに行くのかも知らないし、扉が次いつ開くのかも知らない。

さっきの焦りとは違う種類の焦りで、一気に汗が噴き出す。

どうしよう!どうしよう!いくら焦ってたからって、行き先くらいちゃんと見るんだった!!

文字通り、進行方向を見たり外を見たり右往左往する。
テンパっているからか、何両編成の何両目に乗っているかも判断出来ない。
回送電車って駅員の人乗ってるの?
どっちの方向に探しに行けばいいの?
怒られるよね?
見付からないように降りられないかな?
一番の心配は、乗ってはいけない電車に乗ってしまったこと。
駅員さんに怒られるのではないか、迷惑を掛けるのではないか、大きなニュースになるのではないか、警察に連れて行かれるではないか。
知識がない分、次から次へと見付かった後の妄想が頭を駆け巡る。

遠くの知らない土地まで走っていくのかな?
もしかしたら朝まで出られないのかな?

ガチャンッ

後ろから連結車両の扉が開く音がし、瞬時に振り返った。