痴漢③

 

後ろを振り返ると、当然車掌さんが立っている。。。
と思ったのだが、そこに立っていたのは先程のナンパ男だった。

え?
なに???
なんで?????

いつこの男もこの電車に乗ったの?
撒いたんじゃなかった?
ついてきてたの?
パニックの頭に更にパニック・・・わからない・・・なにも・・・

頭の中が???でいっぱいになる。

男がネクタイを緩めながらゆっくりと歩き、あたしに向かって言った。

「逃げちゃダメじゃん。」
「これ回送電車だよ?何で回送電車に乗るの~?」
「向こうの電車に乗りたかったんじゃなかったの?」

真っ白な頭の中で、この男も間違えて乗ってしまって困ってる、あたしと同じ立場の人、味方だよねと都合良く解釈する。
こっちに近付いてくるのは助けてくれるから、同じように困ってて駅員さんに一緒に謝ってくれる人。
そう思うのと同時に、さっきまであたしをどうにかしようとしてた変な人だから危ない人、近付いちゃダメだし安心して喋っちゃダメな男だとも思い直す。

男はネクタイを外しながらあたしが立ち尽くしている所まで来て、背後を通り過ぎていく。

なんだ、車掌さんを探しに行くんだと思った瞬間、左手を掴まれ、頭上の手摺りに誘導された。

「危ないからちゃんと掴まって。」

優しい声で言われた。
ナンパしてるときは必死さが伺えるような声色だったので、今の優しい声とは全然違う。

安心していいのかな?
言われた通りに手摺りを掴み、無意識に目の前の窓ガラスに映る男に目をやった。
男はあたしの左手がある手摺りでモゾモゾしている。
何してるんだろう?と、実際の手摺りを見上げると、ネクタイで左手を拘束していた。

え“っ?!
どういうこと?!なんで?!!

急いで手を下げようとするが、既に手は下がらなかった。

男はあたしの後ろにピタッとくっつき、右肩に掛かっているバッグをそうっと取り、後ろの座席に置く。

「バッグここに置いとくね。」

この行動によって、強盗ではないことだけがわかった。
男も自分の鞄を隣に置く。
男の行動が全く予測出来ず、体が硬直する。

再度あたしの背後にピッタリくっつき、唯一自由な右手に、男の右手を絡めてきた。
何をされるかわからない不安だらけの中で、右手だけを絡ませてくることに違和感を感じる。
目の前の窓ガラスには男の姿がほぼ映っていない。
あたしのすぐ背後にピッタリくっついているから。
近すぎて怖い。

「この前もこうしてイチャイチャしてたじゃん?あの後デート出来ると思ってたのに、いつの間にかいなくなっちゃうんだもん。探したんだよ?今日やーっと見付けた♡」

???!!!!
は?!!何言ってんの?!
いつの話してんの?!!
誰の話してんの?!!!
怖いっ!!

「スーーーーハァー今日もいい匂いじゃん♡」

首筋に男の息がかかり、一気に鳥肌が立つ。

あたしの右手の指と指の間に、男は自分の指を入れて絡める。

「今日もスベスベの手ぇ♡気持ちいいっ♡」

キモいキモイキモイ!!!

縛られた左手に精一杯の力を込めてくねらせる。
どうにかネクタイが解けないか、男にバレないように引っ張る。

「あーどうしたのぉ?暴れないで♡」

暴れる左手に男の左手が添えられる。

「こっちも寂しかったのかぁ♡気が付かなくてごめん♡」

拘束されている手を指でなぞる。

キモイキモイキモイキモイキモイキモイ!!!

「俺達絶対相性いいよね♡」

あたしの長い髪を片側に寄せ、うなじに鼻を近付けスーーーーっと吸い込む。
左腕をなぞりながら首筋に顔を寄せる。

「あぁ~っやっと二人きりになれたぁ♡もう逃げないでね?」

窓ガラス越しにあたしの顔を覗き込む。

「お返事は?♡」

必死で首を横に振る。

「なぁにぃ?お返事出来ないの?」

「あたしじゃないです!探してた人!あたしじゃないと思うっ!!人違いですっ!!!」

「何言ってんのぉ?間違えるワケないでしょぉ?」

「違うっ!あたし知らないもんっ!!あなたのこと知らないっ!」

右手をグッと握り、手の平も指も触らせないように力を込める。
男はその拳をソッと握り撫でる。

「こうやって、朝手ぇ繋いだでしょ?♡」

首筋をスーハースーハー嗅ぎながら、顔を擦り付ける。

あたしはこの時やっと気が付いた。
男が言っていることに。
先月ひたすら指を絡ませるだけの痴漢に遭ったこと、その男がコイツだってこと。
やっぱりあの後つけられてたんだ!

男の右手は拳を撫で回し、左手は二の腕を撫で回し首筋の匂いを嗅いでいる。

「あ、あたしじゃありませんっ!人違いですっ!!」

どうにかこの男から逃げたくて嘘をつく。

「おんなじ匂いじゃん♡スベスベの手も♡おんなじ♡シャンプーの香りも♡」

「ちがうっ!やめてくださいっ!警察呼びますよ?!」

「呼ぶ?いいよ♡」

なんでそんな余裕なの?!
ハッ!!スマホ!!
バッグに入れたままだ。。。
窓ガラス越しに自分のバッグを見る。
バッグまで遠い。。。

「ほら呼んでいいよ?」

後ろに手を伸ばそうと振り返ろうとすると抱き締められる。

「可愛いね♡いつもの服も可愛いけど、今日の大人っぽい服も可愛い♡似合ってるね♡」

振り払おうとするけど、一層強く抱き締められる。

「可愛い上にエッチなんだね♡さっきエッチなサイト見てたでしょ?」

耳元で囁かれる。
一気に血の気が引いていく。

「またエッチなサイト見たいの?それとも出会い系で誰か探す?」

体が固まる。

「もう俺がいるでしょ?」

耳元で囁きながら吐息を拭きかけてくる。

あたしは何も言い返せない。

「見えてたよ、全部。あぁいうエッチなことが好きなんだね。」

窓ガラスに映る自分を見る。
夜は窓ガラスが反射して鏡のように映る。
毎日電車に乗っているんだから、そんなこととっくに知り得ている。
あたしはバカだ。
全部見られていたんだ。
見られていることにも気が付かずに、のんきに様々なエロサイトを閲覧していた。
恥ずかしい。。。
エロサイトを閲覧していることも、出会い系サイトに登録していることも、リアルな友達や知り合い、彼氏にももちろん、誰にも言ったことない。
誰にも見せたことのない❝秘密の性癖❞❝恥部❞を見られていたことに脱力する。

「俺が叶えてあげるよ。」

様々なサイトを閲覧したので、どのことを言われているのかピンとこない。

「前見て。」

耳元で囁かれ、素直に窓ガラスに映る自分を見る。

「いい子。」

唯一自由だった右手を、男のポケットから出したイヤホンのコードで吊り革と拘束される。
あたしはそれをただただ窓ガラス越しに見つめる。
逃げることを諦めたというより、恥部を見られたことで何が最善かが判断出来なくなってしまった。
頭の中では相変わらず、❝どうしようどうしよう❞という言葉が駆け巡っているが、何に対しての❝どうしよう❞かが自分でもわからなくなっていた。

右手も左手もそれぞれ吊り革に拘束されてしまった。
元々短いスカートが、両手を上げることによって更に上に上がり、太腿が露わになっている。
セクシーなデザインストッキングが丸見えだ。
胸も更に寄せられて谷間が強調されている。

自分でも思う、卑猥な姿。

こういうのエッチな同人誌で見たことある。
でもアレはエロ漫画の世界。
現実に起きるわけがないと思っていた。
毎日大勢の人が乗る❝日常の電車の中❞で、非日常の卑猥な格好に憧れていた。

「あぁぁ~スケベな格好になっちゃた。嬉しいね?」

見惚れていたのは確かだけど、本音がバレたくなくて首を横に振る。

「本当可愛いな♡マジ一目惚れ♡」

男は後ろにピッタリとくっつき、耳を舐めながら拘束されている両手を撫でる。
手はゆっくりと下に降りてくる。
腕をなぞり、脇の下を通過する。
少しくすぐったいが、悟られないよう下唇を噛む。
そのまま胸の横を通り過ぎ、脇腹を通る。
初めて経験するネットリとした愛撫に正直ゾクゾクしてしまう。
ヒップを通り過ぎ、露わになっている太腿を撫でる。

「はあぁぁ~イヤラシイ格好してぇ。息あがってるねぇ。」

そう言われて初めて、自分が興奮のあまり息があがっていることに気が付いた。
急いで首を横に振る。

「我慢しないくていいのに。あぁ、わかった、そういうのがしたいのかぁ。いいよぉ。俺とはしたいこといっぱいしようねぇ?」

男が何に納得したのか分からないが、首を横に振り続ける。

男は首を振るあたしを無視して、ピチャピチャと音を立てながら耳を舐め回す。

あたしはさっきまで、キモイと心底思っていたはずなのに、その気持ちが徐々になくなってきていることに気付く。

男は、ニットの上からお腹や腰回りを激しく撫でる。
胸には触っていない。
お尻にも触っていない。
肝心な所には一切触れられていないのに、身体が熱くなっていく。

窓ガラスに映る自分と、男の手の動きを目で追う。
お腹や腰回りを激しく撫で回すため、谷間から覗く胸も右へ左へ形を変えている。
今にもニットのVネックから零れ落ちそうになっているのがイヤラシイ。
あたしは男の動きに釘付けになっていく。

散々撫で回したニットを整えるかのように、グッと下に引っ張る。

「可愛い服グチャグチャにしちゃってごめんね?」

あまりにも強く思い切り下に引っ張られ、Vネックから胸の谷間が大きく見える。
自分の体なのに、とてもイヤラシイ姿をした女が目の前に映し出されている。
あたしって、傍から見るとこんなイヤラシイ身体に見えるんだ。。。
知らなかった。。。

左手でニットを引っ張り続けながら、右手でお尻を撫でる。

お尻を撫でられることには慣れている。
撫でられても何も感じない。
いつもは何も感じないはずなのに何かが違う。
何が違うのかは分からないけど、正直、、、気持ちいい。
気持ちいいと感じたことは初めて。
俯きながら下唇を噛み、声が出そうになるのを堪える。

「前見ろ、下向くな。」

耳を舐めながら低い声で命じる。

あたしは元々、命令されるのに弱い。
だけど、こんな見ず知らずの男の言うことを聞くことはない。
良い人なのか悪い人なのかも分からない。
だから、言うことを聞く必要はない。
そう言い聞かせながらゆっくりと顔を上げる。

「いい子♡」

その瞬間、男は力任せにニットを引っ張り、片方の乳房を出した。
一瞬の出来事だったので、何が起きたか理解できなかった。

「ブラジャーもセクシー系にしたんだね♡でもコレ、男誘うためのスケベブラジャーじゃないの?」

黒のサテン生地に細かいレースが施されているブラジャーが、まんまるの乳房と共に現れた。

「やだっ!」

彼とはエッチするつもりはなかったけど、新調したセクシー下着をつけてきていたことを思い出す。

「綺麗なブラジャー♡でもダメ!こんなの着けてたら淫乱スケベ女だと思われちゃうよ?」

恥ずかしすぎる格好にガラス越しの自分を直視出来ず、男の方を見ながら訴える。

「やめてっ!やだっ!」

男はわざとらしく音を立てて首筋を舐めながら、あたしを挑発的な目で見つめる。
服を元には戻してくれないことが、その行為で理解出来た。

「やめてってばっ!離してっ!」

両腕を振り、どうにか拘束が解けないか暴れる。

「ねぇー!!暴れたら手ぇ痛いでしょ?」

右手を拘束しているイヤホンの細い線が、暴れることによって食い込んでいく。

男は暴れるあたしの全身を、強い力で撫で回していく。

「あぁもう暴れたらダメだってばっ!あぁでもっハァッハァッこっちのが興奮するかもっ。ハァッもっと暴れてもいいよっ嫌がって興奮させてっ!」

「やだっ!触らないでっ!やめてっ!」

「そうっ!その嫌がる顔ったまんないねっハァッハァッもっと犯したくなるっ!!」

男は暴れるあたしなんかお構い無しで、全身を撫で回し、洋服がもみくちゃになっていく。
その勢いのまま力任せにグイっとニットを下に下げられ、もう片方の乳房も露わになる。
首の後ろの方でビリッと破ける音がした。

嘘でしょ?
このままじゃ洋服がビリビリに破かれる!
そしたらもう逃げられなくなる!!

あたしは徐々に暴れる力を抑えていく。

ガラス越しに男の様子を伺いながら、外の景色に目をやる。

ここはどこなんだろう。。。
いつ停まるんだろう。。。

男は息を荒らげながらブラジャーと乳房のキワを両方の指でなぞる。

「ハァッ綺麗っ、白い肌と黒いスケベブラジャーっ♡」

ブラジャーの上に手の平を乗せる。
ただブラジャーの生地を撫でている。

「綺麗っ、、、」

まだブラジャーの生地を撫でているだけだけど、あたしは心の中で願った。

乳首に指が当たりませんように。。。

いつもあたしの乳首は敏感過ぎるのだ。
洋服で擦れたり、何かのちょっとした刺激にもすぐに感じて大きく勃起する。
自分が一番よく解っている。
今少しでも刺激を与えられたら、大きな反応をしてしまい、男を喜ばせてしまうことを。

お願い。
お願いだから乳首には触らないで。
乳首の場所がバレませんように、お願い。

男は指でレースだけをゆっくりなぞっている。
だから、勃起していない乳首には気付くはずがない。

全身に力を込め、意識を握りしめた拳にやり、男の指の動きをジッと見つめる。
そして、乳首の上を通り過ぎる時、身体が反応するのを食い止めた。
よかった、バレなかった!!

ホッとしたのも束の間、指が戻ってきて乳首の上で止まった。

「ここどうした?」

 

潮吹の鬼
潮吹の鬼