サンドバッグ宣言

 

朝9時、彼から怒りのメッセージが届いた

先程会社に着いて、車を駐車して、降りる準備をしていたら、隣に駐車しようとしていた他社の営業車に自分の車をぶつけられたと。。

ぶつけたのにも関わらず、運転手は何食わぬ顔して降車、そのまま会社に向かおうとしたらしい

彼は慌てて運転手を呼び止めぶつけたことを指摘したが、ぶつけていないと主張された

ライトのカバーが割れて砕け散っているのを指差したが、あぁそうですかとのトボけた返事が返ってきたと

こいつとこれ以上話しても無駄だと判断した彼は、相手の営業車に書いてある会社の電話番号に電話をした

その間に運転手は会社に入っていってしまった

すぐさま電話口で責任者に替わってもらい、事の顛末を話して、謝罪の言葉と今後の対応を聞いたと

その後、彼は自身の仕事を始められずに、保険会社やディーラー等に連絡していたところ、ぶつけた運転手が社内から走って戻ってきて、さっきとは真逆の態度で謝罪をしてきた

さっき対応してくれた責任者にこっ酷く叱責され、事の重大さに気が付いたのだろうか

いや、ただ単に自分が社長に叱られ、早急に謝罪してこいと言われたからきたのだろう

上辺だけの謝罪に酷く怒った彼は、二度と話しかけてくるな!と吐き捨ててきたと、一連の経緯を怒りに任せたままメッセージに打ってきた

身体に怪我をしていない小さい事故でも、事故で生活は一変してしまうものだ

自分に非はなくとも、時間を割いて車を修理する手配をとったり、預けに行かなくてはならない

預けに行ったとしても、すぐに修理してもらえるわけでもないし、すぐに代車を用意してもらえるわけでもない

彼のように車内に仕事道具等を積んでいたら、代車に積み替えなくてはいけない

これらのやりとりをするため、あちこちからくる電話に対応しなければいけない

ただでさえ多忙な毎日の中で、様々なことに時間を奪われる

これまでに予定していなかったことをするために、他の何かを犠牲にしなくてはならない

自分は悪くないのに、被害者なのに、日常生活は一変してしまう

これで怪我でもしていたら通院の時間も割かなくてはならない

完全に自分に非がなければ、次から次へと降り掛かってくることが理不尽に感じてしまう

その上で、相手の対応がそんなだったらやりきれない

彼が怒る気持ちは十分理解できる

怒り心頭の彼の心を少しでも軽くしたくて、わたしはこうメッセージを返した

「そのストレスは全てわたしに向けて♡」

「相手にはもう何も言わないで。言いたいことがあったらわたしに言って?」

「わたしが全て受け止めるから、もうイライラしないで?」

「わたしに全てぶつけてください ^^」

「ストレス発散の捌け口にしてください♡」

「捌け口にしてもらえたら、わたしは喜ぶんです♡♡」

これらの言葉に効果があったようで、いつもの口調でメッセージが返ってきた

「嬉しい。ありがとう。少し落ち着いたよ。」

「ド変態で嬉しい。」

「全部ぶつけるから覚悟しろよ。」

少し恐いけど、読んだ瞬間、不覚にも濡れてしまった

まあ、そうは言っても加減してくれるし、優しい彼のことだから、全てぶつけるなんて無理難題だろうな

不謹慎なのは重々承知の上だが、今度会うときが楽しみになってしまった

5日後の夜、互いの仕事終わりにいつものように食事をした

改めて事故の話も聞く

代車が1ヶ月待ち、修理は2ヶ月待ちだということ

それまで、明らかにぶつけられた跡のある車を目にする人からの、同じような質問責めが続くそうで、、

受け答えも面倒だし、話すたびに怒りが蘇ってきてストレスだと。。

わたしはその怒りを和らげたくて、笑顔で、精一杯の可愛く話す

「そのストレス全部わたしにぶつけてね♡」

彼にも笑顔が戻る

「ありがとう!今日していいの?」

「もちろん♡」

彼は笑顔で、

「嬉しい♡」

と優しく言ってくれた

今夜が楽しみだな♡とワクワクした